梅雨時の箱根仙石原2泊3日の仕事が入った。濡れるのはいやだがバイクで行かない手はない。1週間前から東京、神奈川、伊豆の天気予報を念入りにチェックした。
箱根はσ(^o^;)のバイク道楽の原点。中型免許をとって、カワサキの400cc を買ったのが20年ほど前。RZ350 に乗り、師匠でもある同級生に初めて連れて行って貰ったのが旧道の通称七曲がり〜芦ノ湖スカイラインだ。3速で登ってシフトダウンできずにエンストしたり、パーキングの砂利につかまってタチゴケし、ウインカーを割ったことも、帰りの雨で股間が丸く濡れ(当時はゴアテックスなんてなかった)、軍手をぐっしょり濡らしたことも覚えている。あのころはヘタだった。
箱根で仕事、バイク.......もう一つある。そばだ。箱根でそばが栽培、収穫されるわけではないが、観光客も多いし、そば職人達が清浄な空気と名水を求めてたどりつき、多くの手打ちそば屋が開業している。水は生命の基本でもあり、そばの基本でもある。かなた人間の60% は水でできており、こなた茹でる前の生そばは約40%が水、茹でた後は優に50%を越えるだろう。水の善し悪しはあなどれない。漫画「美味しんぼ」でも水がテーマのひとつになっている。
東京の広尾に暁庵(あかつきあん)というそば屋がある。高橋名人の流れをくみ、丸抜きのそばを毎朝製粉して提供している真面目な店だ。二八そばのみだが、タネ物や豆腐、焼き味噌などの脇役も洗練されており、カウンター越しに調理場の仕事が見て取れる。完全禁煙がいさぎよい。他の店と比べて際だっているのが名人譲りの包丁の丁寧さだ。σ(^o^;)は喫煙OKの飯屋にはほとんど行かないので広尾曉庵は気に入っている。
暁庵の近くにT庵という行列のできるそば屋がある。そばや出汁巻きが上手で、雑誌では名店と評判だが、盛りつけが少く、店内は手狭だ。テーブルには堂々と灰皿が置かれてあり、タバコ吸いが入ったとたん、空気はまずくて不健康、タバコの醜悪なニオイにそばの微妙な香りはかき消されてしまう。職場から歩いて5分の距離にあるが、もう1年近くT庵には行っていない。その後禁煙になったかどうかは定かでない。
実は広尾暁庵は東京支店で、本店は箱根湯本ホテルのなかにある。前述の七曲がりのふもとだ。仕事は初日の午後3時始まり。朝9〜10時に東京を出れば箱根暁庵経由で仙石原の仕事に入れる。
今年はカラ梅雨なのか出発当日は晴天だった。蕎麦通輪倶楽部のTシャツを着て、K1200RS に乗って首都高渋谷線から東名、小田原厚木道路を抜けて1号線へ。箱根新道入り口をやりすごして、左折、早川を渡り旧道にはいる。ほどなく右側に箱根湯本ホテル別館がありここで一休み。フロントで聞いてみると、さらに700m 上って右折、温泉街に通じる急坂を下りてください、と。なるほど急坂だ。湯本の名だたるホテル/旅館の前を抜けるとそこに暁庵はあった。
平屋の簡素なたたずまいと広い駐車場があり、平日の昼のおかげで客の入りは8割程度だった。いろり端の席に案内された。ジャケットやメットを置くのに都合がよい。
囲炉裏越しに相席の老紳士の舌鼓が聞こえてくる。何気なく出されるそば茶と水の旨いこと旨いこと。広尾暁庵の盛りつけ量を想像しながらざるを2枚注文した。初めての方はそばセットがよいだろう。豆腐が絶品だ。しかーし、ここでは水がなんといっても至高の味だ。読者はこの店で水を味わうことを決して忘れないで欲しい。

打ち場の広さはビックリするほどだ。訪れたときには終いになっていたが、おそらく同時に3人の打ち手が麺棒を振るえるだろう。打ち場ごしに駐車場にとめたバイクの写真を撮ってみた。
そばの味は格別だった。水以外は、材料、作り方とも広尾暁庵とほとんど同じのようだが、味のみならず咀嚼(そしゃく)に抵抗するもちもち感、喉をそば切りが通過する際のにゅるにゅる感がよい。広尾の味がさらに数段洗練されたような感じだ。一枚目の半分ほどはツユなしで食べてみた。今回は箸を付ける前にそば切りの写真を撮ることができた。

そばつゆはカツオの香りがやや強く、これには好き嫌いがあるかもしれない。最初からつゆがたっぷり猪口(ちょこ)に入ってきたのはちょっと残念だった。猪口に入れるそばつゆの量はブレーキフルード、エンジンオイル、キャブレターの液面のごとく過不足無く調整することが重要だ。そば通は液面調整を自分でやるものだ。でもこれは些細なこと。
付け合わせのわさびは伊豆産だろう。ネギのさらし具合もちょうど良い。
いわゆる「くるま食べ」であっさり2枚たいらげた。ツユの追加は不要だった。もう1枚どうしよう。フトコロ具合 V.S. ハラ具合の押し問答が続く。
「東京からバイク(^^;)で来ました。これから仙石原で仕事です。いつもは仕事先近くの広尾に行ってるんです」と会計しつつ挨拶した。結局ハラ具合が惨敗した。もう一口、もう一口、とそば湯と冷水で余韻を楽しんでいたその時、歴史が動いた。
横に常連客と思われる恰幅の良い紳士がいきなり腰掛け、店員に「いよっ」と声を掛けた。σ(^o^;)の胸の「蕎麦通輪倶楽部」をじろじろじろじろ観ている。手洗いに立って帰る支度をしているとその紳士「よく来ましたね。ここは広尾よりおいしいでしょう。Tシャツが面白い。洒落てますね。広島(高橋名人の店)までバイクで行くんですか?」と親しく話しかけてきた。彼は「何ccですか?」「倒れたら起こせるんですか?」といった質問は一切無く、そばに関する話に終始した。「丸抜きですが毎日製粉しています」 「水がおいしいでしょう?」「店長は高橋名人の弟子なんですよ」
よっぽど蕎麦が好きなんだろう......しかしこの人はだれ???と思いながらも時間に追われ、荷造りをしていると忙しいだろうにわざわざ店長が出てきて丁重に挨拶してくださった。若くて真面目そうな方だ。先ほどの紳士はなんと箱根湯本ホテルの社長さんで広尾の客のσ(^o^;)に丁重に挨拶するよう命じられたのだ。広尾の店が好きで、ヘンナTシャツを着てバイクに乗ってわざわざ来て、そばの写真をぱちぱち撮って一気に食べたσ(^o^;)の立ち振る舞いがよほど気に入ったのだろう。この人が暁庵開業にあたって高橋名人を口説いたひとか..........そして記念に店の玄関で一枚。名刺も頂いた。皆川さんとおっしゃる店長さんは高橋名人の愛弟子。「お近くのT庵はどうですか?」「そばはウマイですが空気がまずいんです」とσ(^o^;)。

イチゲンで行ったのに、そばのプロから丁重な挨拶。蕎麦通輪倶楽部Tシャツ、もとえ、バイクで旅してそばを食らう我々の理念や活動がプロ中のプロに認められた瞬間だったようなうれしい感じがした...............はしゃぎすぎ?(^^;)
そば屋探訪のおもしろさは 旨いそば自体との出会いだけではない。そばを取り巻く空気、土地、水や人との出会いも楽しい。今回のように、時にそば通の大先輩が店にいる。山形県大石田町地年子のそば屋でも「なぜ美味か地年子そば」を著した斉藤先生 (http://www.flhr.net/hitton/INDEX/index145.html)に偶然接近遭遇したことがある。今回は旨い水に出会い、長年手打ちそばに情熱を傾けるお二人の歓待を思いがけず拝受したのが大きな収穫だ。
なぜその場所にそば屋があり、そば職人が黙々とそばを打つのだろう?箱根暁庵においては、旨い水がそこにあり、手打ちそばを愛し、訪れる客にうまいそばを提供したい経営者の熱意がそこにあるからだろう。
車で箱根曉庵にいらっしゃる際は交通に十分注意して欲しい。入り口を通り過ぎるとUターンが大変だ。七曲がりを上り下りしてからそばを食べるのも一興かもしれないが........(注 湯本駅前からも入れるようだ 駅からバス送迎ありhttp://www.hakone-yumotohotel.com/page12.html
*** 参 考 ***
箱根曉庵 箱根湯本ホテル
http://www.hakone-yumotohotel.com/page37.html
http://www.jalan.net/kanko/SPT_170642.html
箱根曉庵 広尾店
http://www.hakone-yumotohotel.com/page2.html
東京蕎麦食 評
http://www.geocities.co.jp/Foodpia/2329/soba/minato_akatsukian.html
年末に高橋名人が腕を振るうことがある
いずれの店も店内禁煙、店外に灰皿が置いてある
全国の高橋ファミリー P. 92 高橋邦弘の達人そば打ち指南 河出書房新社 1999
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