近くて遠い場所
8月9日

 8月の休日に、歩いて江ノ島へ行った。
考えてみると内部まで行くのは、まだ2回目である。
 江ノ島には女性の弁天様が祭ってあるので、カップルで行くとヤキモチを焼かれて別れる?という迷信を聞いたことがある。もちろん私がそんな事を意識していたわけでなく、ただ単に近すぎていつでも行けると思い、気がつくともう何年も行っていない場所だったのである。

 近くて遠い場所がいつも存在した。私は倉敷生まれで、小学校も倉敷の白壁の美観地区と呼ばれる観光スポットからほど近いところに通っていたが、大原美術館に行ったことがあるのは親戚が帰省したりした時しか行った記憶がない。
 また大坂に住んでいた時に大阪城を訪ねたのは1度限りだ。いまから思えばもっと行っておけばよかったと後悔している。
 栃木県に住んでいた時も、日光の戦場ヶ原にはよく通ったが、日光東照宮や華厳の滝を訪れた事は一度もない。いつでも行けると思っているうちについにその場所を離れてしまい、結局、日光東照宮を訪れたのは、神奈川県に住みはじめてからの事だった。

 この日、家を出て江ノ島を目指して歩いていると、に見慣れた海岸線なのに、乗り物で走っていると見ていたようで見えていなかったいろいろなお店があることに、気がつく。写真を撮影するには歩いていないとシャッターチャンスやフォトジェニックな対象を見つけることができない、見ているようで見えていない風景という事だ。

 江ノ島の橋を渡ると、大勢の観光客とすれ違う。汗をかきながら両脇の土産物屋や、食事処を冷やかしつつ歩くと風情あるどこか遠い観光地にやってきた気分である。
 一番高い場所に江ノ島展望灯台がある。たどり着くと、それまでの灼熱が嘘のように涼しい。この暑がりで尋常でない汗かきのわたしが、涼しい!と豪語できるほどなので、相当涼しい事はわたしの事を知っている方なら想像に容易いはずだ。
 半世紀ぶりに改築され新しくなったという江ノ島展望灯台に上ると、さらに驚いた。風がさらに強く、しかも下界からは想像もできないような大パノラマである。すっかりどこか遠くへ来たようだ。

 江ノ島亭という場所で、しらす丼と生ビールを飲む。旅気分を構成する要素として、非日常・未体験・新鮮な驚きなどがある。幸い江ノ島を訪れたのは2回目なので久々に見た風景や食事、すべてがちいさな非日常であった事が、旅気分を味わうことができた要素だろう。
 距離にかかわらずこの度合いを基準に考えれば、たとえ近くの街や未知なる道も同様な事が言える。
 逆に、遠くの場所、あるいは海外旅行であっても既に何度も訪れた事がある場所であれば、この旅気分は少ないはずだ。
 近い場所は日常的な空間として捉えがちであるが、日常という先入観を持っているだけで、実は非日常が潜んでいるかもしれない。近くて遠い場所には小さな旅がある。

2003年9月更新




2003年8月9日・江ノ島展望台より鵠沼方面を撮影。撮影機材・FUJI ファインピックス50iオート撮影。


















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