ロードキングと普通のオートバイ

 今乗っているハーレーのロードキングは98年モデルだが、97年の暮れに納車しているので、早いものでもう2回目の車検も終わって5年目に突入する。気持ちの上ではまだ買ったばかりのような気なのだが、この間、結婚だの引っ越しだのいろんなことがあってあまり乗っていない。というか満足するだけ距離も走っていないので、ロードキングに対して新鮮な気持ちを失ってはいない。初めて買ったおおきなオートバイはSRX400だったので(大きくはないけど)嬉しくて毎日毎晩のように乗りまくりあっという間に5万キロも乗っていたような10代の終わりのような若さもコーゲキ的な走りもしなくなった私にとって、たまに乗るなら長距離をのんびりと船のようにクルージングしたいという欲求と用途にぴったりと合ったロードキングは最高のオートバイだと思う。
 時々浮気心で、音楽も聴けるカウルのついたエレクトラグライドクラッシック等のカタログに目がいくこともあるが、音楽とカウルとリアの箱のためにわざわざ買い換えたくなるほどではない。
 ということでこの先、買い換えたくなるオートバイはないのではないだろうかと思えるほど今のロードキングに満足している。なんと言っても手軽にシールドを外して、あの美しいナセルを見ながら初夏の早朝に海岸線をドロドロとゆっくり走るのはハーレーのエレクトラグライド冥利に尽きる。(え?意味不明だって?気にしない気にしない)
 あの重い巨体がアクセルを緩めてもそのままの打力で巡行する船のような巡行感覚は、残念ながら高回転型のオートバイや軽量なバイクでは味わうことができない独特の至福の世界だ。

 私にとってロードキングはクルマのキャデラック的な位置づけのあるオートバイだ。存在感があって重厚で優雅で上質な味わいがある。だが、自分にとってそれは等身大かといえば、少し無理がある気がする。
 金額的にという意味ではない。ローンはとっくに払い終えているので維持費にお金が特別かかるわけではないが、大きさ・重さ・存在感そして内面的な面で、ロードキングは私にとって負荷がある。といってもその負荷は自分でかけた負荷であってその負荷を楽しみ、その負荷に満足はしているが、時々思うのは身の丈サイズ、等身大のオートバイも欲しいなあと。ロードキングはよくも悪くも存在感がありすぎて、たとえば見知らぬ街にバイクを停めて静かに歩こうにも、あるいはどこかで休憩しようとしても必ず、年輩の方が近寄ってきて「いくらするの?何キロでるの?重さは?」のお約束3点セットを尋ねてくる。旅をしている私という人間に興味があるのではなく、そこにあるハーレーというモノに興味があって寄ってくる。まあ時々なら悪い気もしないが、行く先々でいちいち応えていたのではキリがないし、かと言ってせっかくの旅先で、親しげに話しかけてくる観光バスでやってきた自分の親よりも年輩であろう人々に冷たい反応をするというのもなんだか忍びない。そんな理由から時々、風景にとけ込むようなかつ長距離もそこそこ楽に走ることができて風景で絵になるようなバイクが欲しいと時々考えるのだ。

 そこで最近候補に残るオートバイはヤマハのSR500とカワサキのW650。どちらもオートバイ然としたカタチと伝統的な雰囲気が漂っている。悪く言えば非常に地味。よく言えば渋い雰囲気である。存在感はバイク好きにしてみればあるかもしれないが、一般社会の人がみれば特に意識せずにすむはずだ。
 SRは元々最初に買うつもりのオートバイだった。買う段階になってモダンなSRX400が1985年に新発売になって当時18才だった私は迷ったあげくSRXをチョイスした。
 ところで今でこそ10代でもSRに乗る若者は多いが、17年前の1985年当時SRそのものは人気があったが、あくまでもおじさん層に受けていた。事実その頃大阪に住んでいた私は城東区にあるシングルショップに通ったが、そこで知り合う人はみんな遙かに年上の人ばかりで、若くしてシングル好きというのは相当珍しい存在だった。同年代の友人は皆、4気筒マルチエンジンのFZ400やGPZ400,CBXやCBR400だったし250ではVTや2ストのRZ乗りばかりであった。限定解除ライダーはもちろん稀で、ナナハンに乗っているだけで、羨望の眼差しだった。
 サーキット走行、バックステップや細かいパーツのカスタムにはまっていくうちに、やがてやっぱりSRにすべきだったと思えるほどSRのエンジンの造形には魅せられた。だがその後急速にオフローダー化していった私は、SRの魅力から遠ざかったのである。

 W650は夢にまで思い描いたカワサキのバーチカルツイン。まさかこんなオートバイが新しく発売されるなんて夢ではないかと思った。もうすでにハーレーにはまっていた頃なので、買うところまでは至っていないが、もしハーレーに今乗っていなかったとしたら間違いなく選ぶオートバイだ。
 欲しい理由はすこぶる簡単で、カワサキのW1との出会いが衝撃的だったこと。まだオートバイの免許もないころに家族で近くのイタリアン料理屋によく行った。倉敷の美観地区から少し外れでいまはハイカラなホテルが建っている道の道中にポツンとあった小さな店だ。ピノキオという屋号のお店で若い経営者が1人でパスタやピザを出していた。イタリアで修業してきた店主はオートバイが好きで将来は、欲しいオートバイがあると言っていた。今でもその店のカツやピザ、パスタは忘れ得ぬ味であるが、今は倉敷にその店はなく、兵庫県の山奥でひっそりと営業しているらしい。
 その店で時々常連客としてやってきていたのが高知ナンバーをつけたW1だった。長身の男性と知的な雰囲気のある女性がいつもタンデムでやってきていた。服装からすれば真冬だったのだろう。走り去る排気音を聴くためにわざわざ店の外へ出てその人たちを見送った。その時のバーチカルサウンドは今でも強烈に鮮明に覚えているほどいい音だった。その事があって、なぜいまバーチカルツインのオートバイは新車で買えないのだろう。もしあれば絶対買うのに!と当時私は周囲の友人へバーチカルツインへの想いを熱く語っていたはずだ。

というわけでいざ発売されてみると、W1やW3に憧れた私は今やハーレーダビッソソンの魅力にはまっているが、機会があれば、この2台はいつか乗ってみたい気がするごく普通のオートバイだ。蕎麦屋の店先にも合うでしょ?(笑)

2002年5月9日

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