-山形蕎麦ツーリング 蕎麦の宿「たきみ館」編-

 きよそばではすっかりくつろいでしまい少し曇天だった空が、また青空に戻ってきたので走り出すことにした。夕方まで余裕があるので市街地や少し山側に走ることになった。
 国道47号線に入って鳴子方面に向かうべく走り出した。鳴子温泉郷はかつて自転車で佐渡島を自転車で1周したあと、新潟に戻ってとめてあったランクルに自転車を積み込んでそのまま夜間ドライブをして別働隊と合流キャンプしたことがある思い出の地だ。度肝をぬくような広大なキャンプ場が、間欠泉の近くにあってそこで2泊した。鬼首キャンプ場だったと思う。
 そんな思い出を考えながら走っていると、むむむ、ややや、突然雨雲が広がり天候が再び悪化。なんと冷たい雨まで降り出してきた。特別目的はなくただ走りたいというゆとりの時間だったので先頭を走るくるま氏が国道47号線に合流したあと進路を東ではなく西へ向かいはじめた。内心やれやれとほっとした。どうやら無線機で最後尾を走るkita氏と協議の結果、東の悪天候の山岳路に突入する意味なしと判断したようだ。よかった。無線機さまさまである。これが無線機でもなければそのまま雨でも突入しひたすら走ることになっていたはずだ。オートバイというのはその特性上一度走り出すと停車するのがとても億劫になって、あーカッパ着ようかなーどうしようかなあーなどと考えているうちに全身ビショ濡れという事はよくある話だ。

しばらく走ったあとにパーキングスペースに停車した。特に急ぎの目的地もなくこうして走るのんびりとした時間もなかなかいいものだ。日帰りツーリングでは得られない心の余裕が生まれる。


 なにか要望はありますか?とくるまロードキャプテンがみんなに尋ねたので、すかさず「うまい珈琲でも飲みたいねー」という話しに全員一致で合意。可決案となった(といっても4人だけど)すかさず走りはじめた。2年前の山形蕎麦通は7人のオヤジで走ったけども4人となるとさらにフットワークが軽い。

 途中ガソリンスタンドで給油して600円の地図を探す。これは私が最近はまっているモノのひとつでコンビニ等に置かれている県別の薄い地図だ。10月のツーリングではこの地図の群馬県版と長野県版を現地で購入した。山形県版もかうつもりだったのだがどうやら東北版とひとまとめになっているらしく探してもみつからない。特別どうしても入手したいというほどのものではなかったのだが、くるま氏が本屋を探してくれてそこも確認することになった。目的とする地図はなかったのであるが、思わぬ副産物として土産が手に入ったのである。それは蕎麦の書籍。

 私がその時発見したのは、「なぜ美味か次年子そば 」齋藤美代三著 大風印刷出版局という山形で製版されたローカル本だ。

 さらにくるま氏は「あらきそばの神髄」という本も買っていた。あとになってこちらも買っておけばよかったと後悔することになるがとにかく自分へのおみやげを早くもゲット。(結局ツーリング後にあらきそばの神髄も買いにいくことに・・)

 ちなみに買ったお店は尾花沢市昭和通りに文長という本屋さん。旅先の書店はその地方でしか販売していない書物をみつけることができすので楽しい空間だ。
 ついでに書くと旅先での土産物屋さんに売っているものはまず地元の人が買わないようなものをかなり高額で売っている場合が多いし、土産用として開発されたわざとらしさが好きになれない。日本全国のみならずこれは世界で共通している気がする。バリ島に行った時も地元のスーパーが面白かったし、北京では普通の百貨店のおもちゃ売り場が楽しかった。またフランスではD.I.Y店や街角の文具屋の方がワクワクした。特に昨年訪れた中国の奥地の田舎町で入った商店街の片隅にあるような日曜雑貨店は価格といいホーロー製品の雰囲気といいこれぞ素晴らしいと感じた。
 土産物屋で逆に存在して欲しい物は各地のステッカーやプレートなど。たとえば全国でほぼ同じ大きさの各地のステッカーとかがあれば日本一周中の青年などや、あるいは家族旅行で訪れたマイカーなどが喜んで貼ってくれそうな気がするのだが。比較的北海道はこの手の北海道の証となるようなステッカーがある。ぜひ他の県も作ってほしい。市町村単位でもいいと思う。
 そもそもみやげは土産と書くので理想はその土地ならではの産物がふさわしいのに今ではパッケージデザインが違うだけで中身は似たりよったりのお菓子とがあると悲しい。まあ買う方は所詮みやげなので自分の旅の思い出や痕跡、記録というよりは他人への持ち帰り品というのがメインなのでなかなか利益を考えるとステッカーやプレートなどはどうでもいい立場になるのだろう。
 ロードキングに乗るようになって収納スペースがあるせいか家族や友人に土産を買うようになったが、以前は全く土産を買わない方針だった。いまでもアアンチ土産派だ。最近はかなり減少方向だとは思うが、せっかく海外に行った貴重な時間を日本でも大差のない金額で買えるモノのために東奔西走するほどバカバカしい行為はないと思う。

 本屋を出た後は、徳良湖へ向かう。走り出してさほどしばらくすると静かな湖畔に到着した。徳良湖は灌漑用水に利用するため、大正8年に造られた人造湖らしくこの時の工事の時に生まれたのが「土搗唄」と「土搗踊り」で、これが後に「花笠音頭」と「花笠踊り」になったという。花笠踊りは小学校5年生の時にケント紙で丸めて傘状にしてそれを黄色のスプレーで塗装したあとにみんなで踊りを練習した記憶がある。踊りは覚えていないがなぜかケント紙にスプレーしたことが新鮮な出来事だったのでよく覚えている。

記念撮影するために湖畔にハーレーを止める。が、がくさんのショベルFLHは水平に停車させないとガソリンが漏れてくるらしく湖畔で石を探している。その小さな石をサイドスタンドにかませて「これでよし!」とか納得したがく氏だが、その石がころんと転がりサイドスタンドの外れた暁には私のハーレーがあった。念のために私のハーレーを転倒圏外から待避させる。(笑)

慎重すぎるかもしれないその停車には理由がある。実は以前大阪に住んでいた頃、仲間達と青山高原というところまでツーリングに出かけてその時に寄りかかった私の当時のSRX400がまず倒れ、その次にGPZ400FそしてCBX400Fと次々とドミノ倒しした苦い経験があるのでその時の悪夢がビジュアルとして浮かびあがったからだ。

 湖畔にはゲストハウスのような建物があって、どうやらそこはステーキハウスらしい。ここでコーヒーを飲むことにした。静かな湖畔を見ながらツーリングの話し、蕎麦の話し、ハーレーの話しなどをしてしばしおだやかな時間が流れていく。気が付くと30分ぐらいはいたのであろうか。だんだんと日没が近づいてきたので本日の宿となる「滝見館」を目指す。

 さほど遠くない距離を走っていくと見覚えのある急坂に入りそこの駐車スペースにハーレーを停車させた。到着である。裏山を抜けて正面の玄関に到着。2年ぶりの滝見館だ。銀山温泉はかつてあのNHKドラマのヒット作「おしん」の舞台となった温泉地で、独特の風情がある。できれば今後雪の降り積もる時期に来てみたいと思う。

 まずは温泉に入ってお約束の「ふやあー」とうめき声を出す。冷え切った体にはとても温泉は価値がある。寒さとあったかさの差が楽しい。暖房の効いたマイカーやバスで宿に到着して風呂に入るのとでは似て非なる快楽を味わうことができるのだ。マゾともいう。

 この宿も、今回のくるま氏が山形在住時代に縁のある方の宿だ。屋号の前にそばの宿と書かれているところがうれしい。まさに蕎麦ツーリングのためであるかのような宿だ。ちょうどお風呂を出た頃に夕食の準備ができたらしく食事に向かう。お膳の上に彩られた食事はまさに日本古来から続く宿というエンタテーメントのまさに核ともいえる演出だ。ビールで乾杯。風呂あがりなので冷えたビールが最高である。

 

様々な料理は素晴らしいがわれわれが望む真の目的は最後に登場する。蕎麦である。ほどよく上品で、またほどよく野趣も残っていると表現すればいいのか新蕎麦の感動が口に広がる。旨い。当然のように再注文する蕎麦。ほとんど同時にみんなそう感じていたのか蕎麦のみのメニューでもうれしいなという言葉がだれからともなく聞こえる。酒も回って大満足のあと部屋に戻る。(とかいいながら酔っていたため写真を撮影するのを忘れた)
 今回の秋は宿に泊まるのはこれが3回目であるがいずれも山の中の宿であった。尻焼き温泉の宿も、渋温泉もそれぞれ良さはあったが、食事に関していえば、やはり山の幸はいくらがんばっても、海の幸に較べるとかなりパワー不足の感がある。どんなにがんばっても海岸線の宿の食材に、山菜やイワナで対向するには規模と種類で不利なのだ。だがこの滝見館のように、おいしい本格的な蕎麦があれば相手を翻弄させるような真田幸村的な活躍を期待できるなあと今回感じたのであった。山の宿はおいしい蕎麦を出して海岸線の宿に対向すべきだと強く提言したい。まあ私は観光業界でもなんでもないので各地の旅館やホテルが繁栄しようが衰退しようが無関係ではあるが、何百年も続いたような老舗の旅館や施設が幕を閉じるというニュースが流れるとなにかとてももの悲しくなり、何とか復興のアイデアはなかったのかと人ごとながらに悲しくなる。

 まあなにはともあれどんな業種や業界でもこれからは、強烈な個性、専門性、ナンバー1、オンリー1の強さが必要だと感じる今日この頃だ。

 さて部屋に戻るとすでに部屋には布団が引いてあった。われわれは4人は、そのままハーレーをめぐる話題、インターネット、世界情勢などについて討議した。といっても適当な格好でごろんとしながらだが。

 がくさんともくるまさんともいろいろな話しをしたことがあるが、kitaさんと今回のように長くいろんな話しをしたのは初めてで、特に内に秘めたるkitaさんの熱き正義感は学ぶところ大であった。特に疑問や不満を感じたら直接解決のために行動するkitaさんの行動力は尊敬に値する。

 詳しい詳細は割愛するが、要約するとこうである。普通の人間が持つ感情として、自分が得た収穫、情報、知識は自分の内にしまい込み、無償で他人や第三者に教えてあげることに対して抵抗を覚える。kitaさんも学生時代までは自分が勉強したノートを試験直前にコピーを頼む友人に対して抵抗感を覚えたという。それがある時から自分が持っている知識を他人に発信することにより、また他からも違う種類のもっと重要な事をどんどん受信できるという事に気がついた時から、自分が所有している情報を人にどんどん教えてあげる人間になっていったという。実際の話はもっと奥が深い話しであったが、私の稚拙な文章力ではこの程度にしか表現できない。この話しをした時なるほど!と思った。確かにインターネット普及の初期の段階がそうであったし、今でもWEB上の基本理念はそうだと思っている。

 たとえばの話しだが蕎麦屋の情報にも似ている。蕎麦屋の情報はWEB上に公開されているものはまだごく一握りで、まだまだその地域でしか知られていないおいしい蕎麦屋なんて世の中にまだまだ、山ほどあると思っているが、どんどん情報を広げていくからこそ新しい情報が入手できるわけで、そこにある枠を設けてしまうとそこからの広がりはなくなってしまうのではないかと感じている。情報を発信すればそれに応じてさらに知らない情報が入ってくるのだ。

 もちろん心情的にはなるべく自分が得た情報は他人や仲間内だけの情報にとどめておきたいのが普通の感情だが、結局いいもの、いい味、価値ある情報はいくら自分だけしまい込んでおいても結局世間に知れ渡ることになるというのをここ数年感じている。
 たとえば私は地元の人に聞いた各地の露天風呂秘湯情報を暖めておいたのだが、ここ3年ぐらいの間にほとんどの私が知っている情報はその方面の専門サイトにおいて公開されることになった。ショックなことだがWEB、あるいはITの時代とはすなわちそういうことを指していると思う。

 一時的には数の増加で質の低下を招く事態が生じるかもしれないが、その蕎麦屋なり露天風呂、あるいは飲食店やサービス業などそれぞれがホンモノで、なにが一番大切なのかを自ら理解しているならば嘆く必要なく存続できるとはずだ。逆にいえばいくら大資本や大金をかけても見た目だけのまやかしもんであればやがて衰退するのは目に見えている。ここ数年全国各地で廃業に追い込まれた第3セクター絡みの巨大な施設を見れば一目瞭然だ。
 まやかしやいいのがれ、あるいはクレーム発生時の対応の方法を誤ると、大メーカーといえども痛手を被る。もちろんその逆に、いい商品やおいしくて正しい商品を自信を持って世に送り出すなら口コミやWEBで瞬く間に広がってしまう。良くも悪くも怖い時代に突入したようだ。

 話がそれたがこうして山形銀山温泉の夜は更けていったのであった。長い1日であった。(初日編完 )


宿泊データ:滝見館(たきみかん)
山形県尾花沢市大字銀山新畑450−1

蕎麦の宿 滝見館

がく氏とくるま氏

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